結論「マレーシアでは治療費用は最低400万円」

先に結論を書いておきたいと思います。

のむてつ所長のむてつ所長

マレーシアでは「疾病治療費用」「傷害治療費用」の補償額は、それぞれ最低400万円は欲しいところ。あと注意したいのは、医療費が高額になる医療搬送が必要となったとき(マレーシア⇒日本は約230万〜1200万円)。重病時に医療搬送を必要とするかどうかで、必要な「救援者費用」の額が変わります。(下で詳しく説明します)。

このページの目的

海外旅行保険は、本当に1年で20万円以上もする「保険金無制限」のものが必要なのでしょうか?短期の保険なら、本当に、クレジットカード付帯の保険だけでは不足するのでしょうか?

このページでは、マレーシアの医療費の価格を実際に見て、海外旅行保険をどれくらい掛けておく必要があるか、クレジットカード付帯保険で対応可能なのか、それとも不足するのか、などについて検証します。

※東京海上日動やAIU、JI傷害火災、HS損保などの保険会社が公表しているデータから、できるだけ客観的に見ていきたいと思います。(記事下に、すべての出典リンクを掲載)

まず大前提として

海外旅行保険を考えるときに、まず大前提として2点、頭に入れておいてください。

海外旅行保険の額を考えるときの大前提2つ

  1. 一番使う確率が高いのは「治療費用」。この額をメインに考えるべき。
  2. 高額医療費の原因のほとんどが医療搬送。なので「救援者費用」の額も重要

クレジットカードの宣伝でよくある「最大補償額●千万円!」というのは、実は利用確率の低い死亡補償の額だったりします。最大補償額が大きくても、あまり意味がありません。保険額を決めるのに重要なのは、「治療費用」と「救援者費用」です。覚えておいてくださいね。

判断基準

治療費用に関して↓

マレーシアで盲腸手術:約40万円

  • 日本と同じか、少し安いくらいの額の医療費(日本の10割負担額と比較)
  • 集中治療室(ICU/CCU)の額: 27万円/日(私立病院。*12)⇒20日間540万円

救援者費用に関して↓

医療搬送イメージ

  • 日本への医療搬送(定期便): 約230万円(*4)
  • 日本への医療搬送(チャーター便): 約1200万円(*8)

マレーシアの医療費の価格&実際の事例

マレーシアの医療水準は、かなり高いと言えそうです。ただし、我々、外国人旅行者が利用するのは、私立病院となり、サービスは良いものの高額になるため、保険などの準備が必要です。

医療機関は比較的充実しており,大きな私立病院であれば設備も十分に整っているので特に問題なく受診できます。こうした病院の多くでは海外旅行傷害保険があればキャッシュレスで受診できます。ほとんどの医師は英語を話し,日本人スタッフや日本語での診療が可能な医師が勤務している私立病院もあります。このような医療機関は一般に高額なので,海外旅行傷害保険に加入しておくことを勧めます。

↓こちらの説明の「積極的に日本人患者へサービスを行っている病院」も、つまりは日本人向けの私立病院ですね。

積極的に日本人患者へのサービスを行っている病院では、日本の大学を卒業した医師を指名することや日本の看護士資格を有する人材や医療に詳しい通訳を置いているので、受付でその旨を訊ねることも可能です。…(省略)…
医療費

  • 一般国民が利用する国立病院は安価ですが全てマレー語対応である上、待ち時間がとても長く、また処方される薬が粗悪な可能性があることから、駐在員の利用度は皆無と言えます。(風邪での外来治療費は¥50~)
  • 上記理由で最寄のクリニックを利用する国民が殆どですが、これらクリニックでは英語があまり通じません。(風邪での外来治療費は¥500~)
  • 大多数の日本人駐在員は日本語を話す医師、あるいは日本人通訳のいる私立総合病院、クリニックで受診します。(風邪での外来治療費は¥4,500~)
  • 私立病院での入院を必要とする病気の場合には、個室、二人部屋、大部屋などのランクがあります。高級ホテルなみの病室もあるので、サービス内容と料金表を見て、病室を選択します。

私のマレーシア在住の友人も「公立病院は、どうしても近くにしかないならやむを得ないが、おすすめはしない」との話でした。公立病院は、なんと緊急手術でも待たされることがあるそうです(汗)。交通事故に遭ったマレーシア人女性の母親が、かけつけた公立病院の救急車を断り、自分の車で待ち時間の少ない病院へ運んだ、というスゴイ話が↓こちらのブログに書かれています。

公立病院は医療の質自体は低くはないですが、医療をサービスという視点で捉えた時に、待ち時間が長いことや建物が古いことがネックになり、中間層~富裕層に敬遠されています。…(省略)…日本人をはじめとする外国人居住者は病気になると、ほぼ100%待ち時間が少なくてキレイな私立病院へ行きます。…(省略)…病気にもよりますが、1回の手術で数十万~数百万円実費で請求されたりします。

↓かかる病院が、専門医なのかどうか、ということでも、診察代が倍になったり、違いがあるようです。

マレーシアで医者特に専門医(耳鼻科、外科、眼科、皮膚科など、一般内科ではない医者のことを指す)にかかる時の心配はその料金です。…(省略)…軽い風邪程度なら数日分の薬代を含んで2010年時点で1回 RM 40からRM 50ぐらいですが、専門医の場合だと最低でも診察代だけで1回 RM 100近い料金になります…

現在の為替レート:1マレーシア リンギット=[rate_Exc amount=”1″ from=”MYR” to=”JPY”]円

以上のような感じなので、我々外国人旅行者は私立病院を利用する前提で、以下、価格のデータも、私立病院中心に掲載します。

マレーシアの医療費の価格&実際の事例

盲腸(虫垂炎)手術費用は総額約40万円

盲腸手術の費用データ

・26万円(手術代のみ。私立病院、2013年*4)
・15万円(手術代のみ。私立病院、2009年*5)
・23万円(病室代/看護費用/技術料など総費用。2008年*2)
・7~12万円(病室代/看護費用/技術料など総費用。2004年*3)

のむてつ所長のむてつ所長

ちなみに日本の医療費は↓こんな感じ。
●盲腸手術:総額約60万円
●個室入院:一日3〜10万円
●ICU入院:一日8〜10万円
(出典2008年*2)

入院時の部屋代は個室1日6000円

病院の部屋代(1日あたり)
・私立病院個室 6千円
・私立病院セミ個室 4千円
・私立病院一般病棟 3千円
・公立病院個室 5千円
・公立病院セミ個室 4千円
・公立病院一般病棟 3千円
(すべて2013年*4)

 ※薬代、X線代、検査費は含まず

集中治療室(ICU/CCU)の費用

集中治療室(ICU/CCU)の費用データ(1日の価格)
・27万円(私立病院、2017年*12)

東京海上日動の調査では↓この金額なのですが、現地日本人の方々に聞くと「そんな安いわけない」という反応多数。
・1.1万円(私立病院、2013年*4)
・8千円(公立病院、2013年*4)

その他の治療費用のデータと事例

少し医者に診てもらうだけで、数万円はかかると思ったほうが良さそうです。

胃腸炎での外来初診料(2013年*4) 約1.6万円
副鼻腔炎での専門医の外来初診料+薬(2016年*11) 約1.8万円
日本人医師のいる病院での問診(2014年*11) 約1.8万円
日本人医師のいる病院での1日を通した血圧検査(2014年*11) 約2.3万円
救急車の基本料金(2008年*2) ①公営:無料
②民営:6千~8千円
入院保証金(2009年*5) 私立病院
9千~17万円
無呼吸症候群の入院検査と診断(2016年*11) 約3.8万円
MRI検索、特別室での1泊、翌日の専門医(2009年*11) 約7.5万円
アキレス腱断裂の手術費用(2013年*4) 32万円
副鼻腔炎のレーザー手術費用(2016年*11) 60万円
肘から手首の複雑骨折(2016年*11) 100万円
街の歯科医で、虫歯1本につき(2016年*11) 1,800〜2,500円

高額な事例(医療搬送を含まないもの)

事故状況(年度・出典) 保険金支払額
溺れて救急車で搬送。水の誤嚥による肺損傷と診断。家族が駆けつける。(2014年*1) 335万円

以上のデータを見て、マレーシアで治療費用は最低400万円必要、という判断をしました。

しかし、上記は、あくまで医療搬送が絡まないデータ。医療搬送が必要になったときの費用を、↓次に見てみましょう。

マレーシアから日本へ移送費&実際の事例

医療搬送チャーター機イメージ

チャーター機での医療搬送は、1時間につき約80万円かかる

定期便か、チャーター便かで、かなり価格が変わります。

定期便利用の場合

合計 約230~280万円
(2013年*4、2009年*5)
・付き添い医師1名、看護師1名
・座席を6~10席確保し、ストレッチャー利用
・定期便のメリットは、安いこと。
・デメリットは断られることもあること(感染症の疑いや、繁忙期など)

チャーター便利用の場合

合計 約1200万円
・チャーター費用 約1120万円(2011年*8)
・その他費用 約80万円
(その他費用の内訳)付添い医師1日20~40万円、付添い看護師1日約10万円、医療機材4万円、現地病院〜空港の車移送3~5万円、宿泊費用(遠路の場合)1人1泊1.5万円(以上、2009年*5)、成田空港〜都内病院の車移送 10~25万円(2013年*9)

・チャーター便のメリットは断られないこと。デメリットは高額であること。

マレーシアから日本への医療搬送の事例

事故状況(年度・出典) 保険金支払額
冷や汗・胸の痛み・腕の痺れ、その後嘔吐。心筋梗塞と診断。7日間入院・手術。家族が駆けつける。医師・看護師が付き添い医療搬送。(2012年*1) 514万円

以上が、医療搬送のデータです。

一点、知っておいて欲しいのは、この医療搬送は、利用するかどうかは自分で選べる、ということ。「医療搬送は自分には不要」と割り切れば、海外旅行保険の保険料を節約できます。

医療搬送が必要かどうかの判断=大幅な節約

定期便で約230万~280万、チャーター便だと約1200万もかかる医療搬送。これは必ず必要なものなのでしょうか?

保険代理店に尋ねてみたところ「もちろん医療搬送も、やるかどうかは自分の判断(家族判断)になります」との回答でした。では、医療搬送を希望する人というのは、どういう人で、どういう理由で希望するのでしょうか?

医療搬送はシニア層(65歳以上)が多い

ジェイアイ傷害火災が発表しているデータ(出典)によると、こんな事実が判明しています。

  • 300万円超の高額医療事故はシニア層(65歳以上)が約半数である
  • 2014年度 高額医療事故の上位5件のうち4件がシニア(9,335万円〜1,888万円)

また、ジェイアイ傷害火災とエイチ・エス損保が公開している500件以上の事故事例(*1*7)を一つ一つ調査したところ、↓このような事実もわかってきました。

  • 1000万円超の高額医療事故73件のうち61件(84%)が医療搬送。
  • 医療搬送を病気に限定すると、脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞、心筋梗塞など、シニアに起こりやすい病気が多い。

上で紹介したマレーシアからの医療搬送の事例も、たしかに、心筋梗塞が原因でした。

このように見ていくと、シニア層(65歳以上)であるかどうかによって、医療搬送の可能性は、かなり違うことがわかると思います。65歳未満の場合は、医療搬送の可能性は、かなり低いと言えると思います。

また、逆の面から見ると、医療搬送は本人(家族)の希望で行うものであることから、「シニア層が医療搬送を希望することが多い」とも言えます。

医療搬送を希望する人は、どういう理由で希望するのか?

本人(もしくは家族)の希望で行う医療搬送。日本への医療搬送を希望する理由は、どういうものなのでしょうか?調べてみたところ、3つの理由に集約できました。

日本への医療搬送を希望する人の3つの理由
1. コミュニケーションの不安
2. 現地の医療水準が不安
3. 金銭的な不安

↑これら3つの不安をクリアできるなら、保険料の節約のために「医療搬送は不要」と割りきってよいことになりますね。

「医療搬送は不要」と割りきったとき、どうすべきか

では、今度は、重要な、「高額な医療搬送を断るなら、どう対応したらいいか」という問題を考えてみましょう。上記の3つの不安それぞれに対して考えてみます。

1. 「コミュニケーションの不安」への対策

マレーシアの場合は、都市部なら、日本語対応してくれる私立病院もあるので、問題ないでしょう。また、日本の海外旅行保険は通訳費用も負担してくれます。通訳がいれば、最低限の意思疎通は問題ないはず。日本と同レベルの「かゆいところに手が届く」ほどのサービスは望めないかもしれませんが、節約を重視した場合は、それは仕方ないと割り切るしかないでしょう。

2. 「現地の医療水準が不安」への対策

ここ最近、日本以外の国の医療水準は、急速に上がってきています。さらに言えば、ほとんどの国に、外国人や富裕層向けの、高額だが医療水準の高い「ビジネス病院」があるものです。海外旅行保険に加入している日本人旅行者は、ほとんど、こういう病院を利用することになります。ですので、現地の医療水準を、国全体や、その地域全体で考えてはいけません。

とは言っても、マレーシアは全体的にも医療水準は高いです。バンコクの医療関係者の方で、医療搬送にも携わり、医療搬送の難しさと高額さをよく知っている方が、ブログ(2013年の記事)中で、↓こう書かれています。

そろそろ海外で罹災した日本人患者は何でもかんでも日本の医療機関だけを妄信するのはやめたほうがいいのでは?と言わせていただきます。韓国、バンコク、シンガポール、マレーシアのビジネス病院のレベルは、日本の総合病院と医療レベルにおいて遜色はなくなっていますし、サービスレベルで行くと日本よりもはや上になっています。…(省略)…従いまして、もし海外で不幸にも病気や怪我をした場合は、現地でも十分対応できる医療機関があるかもしれないことを考て、そこからどこでどのように治療計画を立てるか柔軟に対応するのが肝要かと思います。

3. 「金銭的な不安」への対策

金銭的な不安というのは、具体的には、例えば、「集中治療室の費用が一日数十万円かかるので支払いが大変。医療搬送の費用を払ってでも、早く健康保険が使える日本で治療を受けたい」というような場合です。

マレーシアの場合は、集中治療室(ICU/CCU)利用が、1日1~3万円です。このレベルなら、20日間でも20~60万円なので、カード付帯保険のレベルでも、カバーできます。

また、先程のバンコクの医療関係者の方のブログには、↓こうも書かれています。

日本以外の多くの国では、医療機関ごとに医療レベルの差、病院費用の差が存在しますので、患者や家族がどのレベルの病院で治療を受けるかという選択をしなければならなくなることがあります。

つまり、簡単に言えば、「病院のレベルを下げれば医療費も下げられる」ということです。高級ホテルのような病院をやめて、少し簡素な病院にすれば、節約できる、ということです。

以上、3つの対策でした。

上の3つの対策を読んで、自分もできそうなら、「医療搬送必要なし」と割り切ることができるでしょう。無理そうなら、医療搬送になった場合も計算に入れて「救援者費用」の項目を多めに準備するようにしてください。

まとめ

マレーシアへ行くときの海外旅行保険は、

  • 治療費用は、最低400万円。
  • 救援者費用は、最低200万円。医療搬送を考えるなら最低300万円。チャーター便利用も考えるなら1200万円。

救援者費用は、こうすべき

医療搬送を不要とした場合、救援者費用は200万円でいいでしょう。これは年会費無料クレジットカード1枚でカバーできる額です。医療搬送を必要とした場合は、救援者費用は300万円以上必要。300万円なら保険付帯カード2枚でカバーできます。

医療搬送でチャーター便の利用まで考えると、1200万円。1200万円準備する場合、1,2週間〜1ヶ月くらいまでの長さの旅行でしたら、保険料もそう高くないので、有料保険に入ることが一番簡単です。有料の海外旅行保険も、各社かなり差があるので、上手に選ぶようにしてください。こちらで詳しく比較・分析しています。⇒海外旅行保険フリープラン(バラ掛け)比較ランキング

治療費用は、こうすべき

治療費用400万円という数字は、付帯する保険内容が良いクレジットカードなら、年会費無料カード2枚でカバーできる額です(治療費用補償など死亡補償以外は、カードを複数持っていると、限度額を上乗せできます)。ゴールドカードやプラチナカードでなら、1枚でカバーできるカードも少数ですがあります(参考:ゴールドカード比較表)。

ただし、注意点としては、「カード付帯保険は90日間が最長」ということです。3ヶ月以上の場合は、別の節約方法が必要になります。こちらの記事にまとめています。⇒半年〜1年など長期海外旅行保険の節約方法3つ

参考にさせていただいた文献リスト

保険会社の皆様、貴重なデータの公表、ありがとうございました!
*1 ジェイアイ傷害火災HP 海外での事故例(2002~2014年)
*2 ジェイアイ傷害火災HP 海外の医療事情(2008年のデータ)
*3 ジェイアイ傷害火災HP 海外の医療事情(2004年のデータ)
*4 東京海上日動 世界の医療と安全2014年
*5 東京海上日動 世界の医療と安全2010年
*6 AIU 海外での盲腸手術の総費用2008年(AIU海外留学保険総合案内サイト)
*7 エイチ・エス損保 旅行先でのトラブル事例
*8 チャーター機の料金は、アークEFI航空情報センター 航空機チャーター事業部(参考料金一覧)を参考に「1時間80万円×2(往復)×日本までの飛行時間(google mapより)」で計算。
*9 ④搬送費用 先端医療情報サイト ハロードクター
*10 FP花輪陽子のマレーシア移住日記|ザイ・オンライン
*11 マレーシア在住の、のむてつ友人からのヒアリング(2017年)
*12 マレーシアでロングステイ中の複数人の方々からヒアリング(2017年10月)

参考為替レート

現在の為替レート:1マレーシア リンギット=[rate_Exc amount=”1″ from=”MYR” to=”JPY”]円

2013年 1マレーシア リンギット=約29~32円
2009年9月7日 1マレーシア リンギット=26.4円
2008年 1マレーシア リンギット=約32〜34円
2004年 1マレーシア リンギット=約28円